【取材後記】“コンプレックス”という言葉と無縁の男、村松航太

 当サイトの記念すべきロングインタビュー第1号として、今季よりギラヴァンツ北九州に加入する村松航太選手(清水エスパルスユース→順天堂大)にご登場いただきました。1時間以上に及んだロングインタビュー、そして計1万字以上の原稿執筆を終えて感じたことを綴ります。

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 初めて彼と話をしたのは、彼が大学2年生の時のアミノバイタル杯決勝の後だった。順天堂大は2-0の完封勝利で筑波大を下し、同大会初優勝を果たした。ミックスゾーンで声を掛けた時、彼は最初、少し驚いたような表情をした。大学に入ってから、取材を受けたのは初めてだったという。

 2015年に堀池巧監督が就任して以降、順天堂大はロングボール主体のサッカーから攻撃的なパスサッカーへと転向した。攻撃陣には米田隼也、新里涼(ともに現V・ファーレン長崎)、名古新太郎(現鹿島アントラーズ)、旗手怜央(今季より川崎フロンターレ加入)、浮田健誠(今季よりレノファ山口FC加入)といった、大学サッカー界屈指のタレントが揃っていて、彼らの個性を最大限に生かそうというのが指揮官の狙いだった。守備陣はというと、キャプテンの坂圭祐(現湘南ベルマーレ)は複数のJクラブから関心を寄せられ、注目を集めていたが、彼とともにセンターバックのコンビを組んでいた村松が脚光を浴びることはほぼなかった。1年時から最終ラインを任され、公式戦全試合出場という“鉄人”ぶりを発揮していたのにもかかわらず。

 だから、初めて取材を受けた村松はこんなことを口にしていた。

「注目されるのは攻撃陣ばっかり。前の人たちが攻撃に専念できてるのは、こっちが後ろを支えているおかげだぞって心の中では思ってる。でも結局、評価されるのは結果だから、坂くんと『1点にこだわろう』って言い合いながら踏ん張ってるんです」

 実際、2人が形成するコンビはなかなか見ものだった。174センチの坂と、171センチの村松。互いに高さはないものの、坂にはそれを補うだけの驚異的なジャンプ力があるし、村松も身体のぶつけ方などで上手く対応していた。2人ともリーダーシップがあるタイプだから、試合中はよく声を出してカバーし合う姿が印象的だった。

 それ以来、順天堂大の試合を観に行った時は村松に話を聞くことが増えた。彼はチームとしての戦い方の意図をとてもわかりやすく説明してくれたし、課題についても冷静に分析していた。勝った試合の後、「今日はここが良かったですね」と言うと、「まだまだ全然ダメ」と否定してきて、逆に負けた試合の後、「今日はここが悪かったのでは?」と聞くと、「でも、ここまではできている」と前向きな言葉で返してくる。勝った時こそ謙虚に、負けた時こそポジティブに。プロ向きのメンタルの持ち主だと感じた。

 進路に関する話を聞いた時、「この身長で、センターバックとしてプロに行くのは難しい」、そう言っていたけれど、ネガティブには聞こえなかったし、弱音を吐いているとも感じなかった。予測にすぎないが、彼の中で解決策がはっきりしていたからだと思う。センターバックが無理なら、他のポジションをやらせてもらえばいい。4年生になってからでは遅いから、村松は2年生の段階ですでに堀池監督に直訴していたし、代わりのCB候補となる後輩を伸ばそうと奮闘していた。下級生のミスから失点が生まれた時には、「自分が教え込めてなかったせいだ」と言った。

 試しに練習でボランチを任された時には、名古のプレースタイルを真似てみた、と言っていた。名古は静岡学園高出身でドリブルの技術があり、攻撃のアイデアも豊富なタイプだから、真逆のスタイルでは?と思った。だけど、今回のロングインタビューの中で「自分でプレースタイルを決めたくない」という言葉を聞いて、しっくりときた。“身長が低くてもプロで活躍できることを証明して、同じように悩んでいる子どもたちに勇気を与えたい”、なんてストーリーはありがちだけど、彼はもはやその域にとどまらない。彼にとって「身長」は、コンプレックスではないのだと思う。

 負けん気の強い選手だから、時に乱暴な言い回しをしてしまう時がある。今回のロングインタビューでは、とてもナイーブな質問をいくつかさせてもらった。例えば、古巣・エスパルスへの想いや、プロ入り後のキャリアプランなど。彼は、言葉を選びながらすごく慎重に答えようとしていたけれど、結局、感情があふれ出てしまって、尖った言葉がチラホラ飛び出した。それらをすべて編集でカットすることは簡単だったけど、そうはしなかった。それでは何年も前から彼を応援し続けている人たちに響かないし、メディアの力でクリーンな印象をつくり出したって意味がないと思ったから。多少の批判を受けたとしても、そのままの彼の魅力を伝えたいと思った。

 プロになって活躍すればするほど、メディアに登場する回数は増える。その時、彼のように歯に衣着せぬ発言をする選手は、メディア側からしたら使い勝手が良いし、とくに新聞など文字数に限りがある媒体では、一部の言葉だけが切り取られ、彼の真意とは違った形で独り歩きしてしまうかもしれない。そういった情報をもとにバッシングされる可能性もある。

 最も、当の本人はそんな他人からの批判なんて気にするようなタイプではないだろう。だけど、これから彼のことを知っていく人たちが、彼の考え方や真っ直ぐな心を感じ取ってくれたら、今回のインタビューを実施させてもらった意義があったと思う。

 インタビュー中にふと、「岩下敬輔選手に似てるな」と思った(カルレス・プジョル以外で、誰々選手に似てるなんて言ったら、彼は嫌がりそうな気がするけれど。笑)。岩下選手といえば、熱い言動から「男気」を慕う声もあれば、棘がありすぎて憎まれ役になってしまっているところもある。岩下選手は以前、インタビューでこんなことを言っていた。

「“ヒール役”がいない物語なんて、つまらないでしょ?好き、嫌い、嬉しい、悔しい……そういういろんな感情があるから、サッカーって面白い」

 村松がそこまで考えているかはわからないけれど、「チームが勝つためなら、自分が嫌われ役になっても構わない」、そんな覚悟は持っていると思う。だから、これからはプロの世界で結果を残して、自クラブのサポーターをたくさん喜ばせてほしい。そして対戦相手の選手やサポーターからは、存分に嫌がられてほしい。「村松がいるから、対戦するのが嫌なんだよね」。そう思わせたら、彼の勝ち――。と同時に、多くの人が“村松航太”という男に心を奪われているはずだから。

文=平柳麻衣