【インタビュー】「ヒデにならついていく」…タレント軍団・明治大をまとめた甲府内定DF須貝英大、浜松開誠館高時代から続けた主将としての心構え

 明治大学は今シーズン、早稲田大学との優勝争いを制して『JR東日本カップ 関東大学リーグ戦』連覇を成し遂げた。チームのキャプテンを務めたのはヴァンフォーレ甲府加入内定の須貝英大。大学5冠を獲得した翌シーズンというプレッシャーの中、Jリーグ内定者12人とタレントが揃うチームをまとめ上げた男には、高校時代から築いたキャプテンとしての心構えが存在した。

 山梨県出身の須貝は、高校進学と同時に地元を離れ、静岡県の浜松開誠館へ入学。副キャプテンとゲームキャプテンを務めた際に意識したことは、チームとしての“基準づくり”だった。

「基準づくりは高校生からずっと意識してやっている。周りに指示するためには自分がしっかりやらないといけないし、自分ができていなかったら説得力もなく、みんなもついてこないと思う。自分はどちらかというと、熱くなってチームのボルテージを上げるタイプではない。やるべきことをやってチーム内での基準をつくり、みんなを正しい方向に引っ張っていくというキャプテン像」

 それは決してピッチ内の90分に限った話ではない。私生活から最低限の基準を求め、挨拶や身の回りの整理整頓など徹底させた。また高校生として学業も疎かにしないよう、寮長を兼任していた須貝は寮内で携帯を触らないルールを定め、テスト期間には寮のメンバーを集めた勉強会も実施した。サッカーでもチームとして目標を決め、それを達成するためには少しの妥協も許さなかった。本人はそんな高校時代を「かなり厳しくやった」と振り返る。

「選手によってモチベーションの違いや取り組み方の違いが見えた時は、厳しく言った」

 強い意識の原点は、浜松開誠館を率いる青嶋文明監督が築き上げてきたものである。基準づくりも青嶋監督から徹底されたことの一つ。ミーティングでは監督の目を見て話を聞き、監督から選手に「どう思うか」と話を振られることもある。常に集中し、頭をフル回転させながら話を聞くことが求められた。須貝はピッチ内外において監督の求める“基準”を示し、他の選手の手本となるべく誰よりも厳しく自らを律した。目標にしていた「全国高校サッカー選手権大会出場」はかなわなかったが、高校時代に身につけた“人としてのあり方”は、名門大学に進学後も須貝の価値を高める要因の一つとなった。

 須貝が明治大に入学した時、同期の豪華さゆえに大きな注目を集めた。全国高校サッカー選手権で選手宣誓を務め、選手権と高円宮杯U-18プレミアリーグの2冠を果たした青森山田高校の主将・住永翔を筆頭に、強豪チームでキャプテンを務めた選手ばかりが集結したのだ。キャプテン経験を持つ選手が揃う中で、誰がチームを束ねるのか――。そんな周囲からの視線が注がれる中、須貝は高校時代と同じように高い“基準”を自らに課し続けた。毎年プロ内定者を複数輩出しているタレント軍団において、1年生ながら関東大学リーグ戦でデビューすると、2、3年時もトップチームで試合経験を重ねた。そして迎えた最終学年、主将を決める場でチームメイトから挙がったのは「須貝英大」の名前だった。

「周りの選手たちが『ヒデがやったほうがいい』と言ってくれて、そこで自分の中でもキャプテンをやろうという気持ちになった」

「ヒデにならついていきたい」。3年間をともに歩んだ仲間からの推薦は素直にうれしかった。ただ、前年に大学5冠とタイトルを総なめにした明治大。その翌年となれば同じように期待がかかり、主将となればさらなるプレッシャーを背負うことになる。須貝も「覚悟を持って、強い意志を持ってやろうと思った」とその重圧を感じていた。そんな次期キャプテンの緊張を和らげたのは、前キャプテン・佐藤亮(ギラヴァンツ北九州)から掛けられた「自分らしく引っ張っていけばいい」という言葉だった。

「昨年の主将だった佐藤亮さんから『お前がキャプテンをやると思ってたよ』と言われた。『プレッシャーはかかると思うけど、硬くならずに自分らしさを持ってみんなを引っ張っていけばいいから』と言ってくれた。本当にその言葉どおりだと思う。プレッシャーがある中でもプレッシャーを感じすぎずに自分らしくやろうと思えた」

 前主将からの金言は、須貝の肩の荷を下ろし、硬くなっていた緊張を解いた。それでもシーズン開幕前は強くプレッシャーを感じていたものの、副キャプテンの2選手と主務の4人で積極的にコミュニケーションを取った。「ほかの4年生も、自分が行ったことに対して協力的にやってくれたので助かった」。佐藤の言葉と仲間たちとの信頼関係が大きく影響し、関東大学リーグ連覇という結果に結びついた。

 ただ、須貝自身は今シーズンに満足していなかった。「チームが悪い状況になったときに自分の力でチームを良い方向にもっていく力が足りない。キャプテンとしては力不足だなと感じた」。状態が悪い時こそチームを救える。そんな自らの理想像までは至らなかった。第20節の立正大学戦で負ったケガにより最後の全国大会ではピッチに立てず、ピッチ外で仲間を支えるしかなかった。その悔しさを胸に秘め、次なる舞台に臨む。

 2021シーズン、ヴァンフォーレ甲府でプロサッカー選手としてのキャリアをスタートする。将来、もしキャプテンを頼まれたとしたら?という問いに須貝はこう答えた。

「やりたい。他の人にしてくださいとは言わないと思う。もし、やってくれと言われたら、任される以上は自分もやりたいし、チームに貢献したいという強い気持ちもある」

 悩むことなく即答した本人から強い意思を感じた。高校時代から時に厳しくチームメイトを鍛え上げ、その厳しさを自らにも与えることでさらに成長し、明治大では強いプレッシャーをはねのけてタレント軍団をまとめ上げた須貝のキャプテンシーは、誰も疑う余地がない。

 山梨中銀スタジアムで左サイドを駆け上がる須貝の腕にキャプテンマークが巻かれている姿を観る日も、そう遠くはないかもしれない。プロとしての第一章がもうすぐ始まろうとしている。

取材・文=藤井圭
取材日:2020年12月29日