勝負を分けた冷静なループ…ドリブル自慢の富士市立FW進藤克樹に求められる柔軟性

進藤克樹

《高円宮杯 JFA U-18サッカープリンスリーグ東海 2019 第5節 富士市立 5-1 浜松開誠館》

 5-1の大勝という結果にも、富士市立高の杉山秀幸監督は「スコアほど内容に差のある試合ではなかった」と振り返った。勝負を分けたのは1-1の同点で迎えた53分、後半のゴールラッシュの皮切りとなった進藤克樹の一撃だ。ディフェンスラインからのロングボールを受けると、鮮やかなループシュートで相手GKをかわして仕留めた。

「センターバックからの長いボールは、練習や練習試合の時からいつも狙っていて、後ろの選手ともコミュニケーションを取っていました。(シュートを放った時)キーパーの位置はあまり見えていなくて、だいたいしか把握していなかったですけど、ループを狙って、公式戦でうまく決められてうれしいです」

 前半の終盤に同点弾を許し、「苦しかった」(勝亦健太)中でこの1点がチームメイトに勢いをもたらし、試合の流れを引き寄せたことは間違いない。だが、進藤がこの日、最も納得の表情を見せたのは、89分に生まれたチームの5得点目の場面だった。ドリブルで右サイド深くに進入すると、相手DFの間に絶妙なクロスボールを送り、川村昂大のゴールを御膳立て。「サイドでの一対一は自分が一番得意としている形。あの場面でも『相手を抜いてクロス』というイメージができていたので、それが完璧にできて良かった」と満足げに振り返った。

 進藤は憧れの選手にベルギー代表FWエデン・アザール(チェルシー)の名前を挙げ、試合前などにはアザールのプレー映像を見てイメージトレーニングをしているという。「自分もドリブルには自信を持っています。一番得意なポジションは右ウイングで、そこで仕掛けて自分でシュートまでいったり、中にクロスを上げたりしたい」。杉山監督も進藤については、「自分の“型”を持っている選手。スピードやドリブルで切り込んでいく技術は高いものを持っている」と評価している。

 一方で、指揮官は一つの武器に固執しすぎない選手になることを選手たちに求めている。富士市立が志向するサッカーは、「根本的にはボールを保持し、点を取りに行くサッカーを目指していますが、行き当たりばったりな攻撃はあまりしたくない。意図的な攻撃をしたい」(杉山監督)。そのために、試合の中で何度もフォーメーションや選手のポジションを変更し、主体的に攻めていく。その理想を実現するためには、選手たちが複数のポジションをこなしたり、フォーメーション変更に適応する柔軟性を備えていなければならない。

「そこは彼(進藤)の課題で、どちらかというとあまりいろいろなポジションができるタイプではないのかなと。この先、例えば進学してもサッカーを続けた時、チームからいろいろなことを要求されると思いますが、それに対応できる選手になってほしいと思います」(杉山監督)

 進藤は5月中旬から始まるインターハイの県大会に向けて、「もちろん優勝したいですけど、チームとしてまだベスト4にも入ったことがないので、一戦一戦、集中して戦いたい」と意気込みを語った。プレーはアグレッシブに、心は謙虚に。そんな両面を兼ね備えた彼なら、自分自身の課題も一番よく把握しているはず。まだまだ進化の過程にいるドリブラーは、冒頭で述べたループシュートの場面のように、冷静な状況判断と的確なプレーで創部初の全国大会出場をめざすチームをけん引していく。

文・写真=平柳麻衣