「1-0」こそ進化の証し…県内東部勢の歴史を変えた富士市立MF望月太陽の一撃

[11.9 第98回全国高校サッカー選手権静岡予選・準決勝 富士市立 1-0 常葉大橘]

 静岡サッカー界の歴史を変えたのは、「めったに点を取らない」男のヘディング弾だった。県内東部勢で唯一、ベスト4に勝ち残っていた富士市立は、過去2度、県制覇経験のある常葉大橘に1-0で勝利。同校として、そして県内東部勢として初の決勝進出を果たし、悲願の全国出場へ一歩前進した。

 試合は富士市立が立ち上がりから攻め立てた。5分に座本柊音がドリブルで持ち込んでファーストシュートを放つと、その後も各々が個人技で相手を圧倒し、チャンスを演出。粘り強い守備を発揮する常葉大橘のゴールを割るのに時間は掛かったが、前半終了間際の39分、ようやく均衡を破ることに成功した。進藤克樹がスピードに乗ったドリブルで右サイドを突破し、中央へクロス。ニアに入った勝亦健太に相手DFがつられ、中央にフリーで構えていた望月太陽がヘディングシュートを叩き込んだ。望月は、大一番で飛び出した一撃に喜びを爆発させ、一目散にスタンドの応援団のもとへ駆け寄った。

「(得点は)高校に入って2、3点くらい。ヘディングは初めてです。シュートが下手で、いつも『お前は打つな』って言われてたんですけど、これで『見たか!』って言えます(笑)。たくさんの人が応援に来てくれている中で、本当に最高でしたし、“持ってるな”と思いました」

 1-0。最少得点での勝利こそ、富士市立の進化の証しだ。選手個々の自主性を尊重する攻撃的なサッカーで、最後まで攻め続けるという本来のスタイルは崩さないまま、要所では無理なプレーを選択せず、隙のない戦いぶりで時計の針を進めた。望月は、4-1-4-1のアンカー、試合途中では3-4-3のボランチとしてバランスを取りながら守備を引き締める役割を担った。

 チームの成長のきっかけとなったのが、今夏のインターハイ予選だ。3回戦で常葉大橘と対戦し、終始主導権を握りながらも0-1で敗北。今季、プリンスリーグ東海に初昇格した富士市立は、個々の能力では光るものを見せていたが、チームとしての勝負強さが欠けていた。

「インハイ予選で負けて、その後プリンスリーグで強い相手と戦ってきて、“勝ち切る力”は少しずつついてきたかなと思います。以前のチームは、得点した直後に失点することが多かったけど、今はそこで一回みんなで気を引き締め直すことができる。波に乗れば何点も取れるチームなんですけど、点を取るだけじゃなく、勝つことも大事。点を取りに行きながらも、落ち着いてボールを握ることを意識してやりました」(望月)

 雪辱を誓って臨んだ常葉大橘戦。決勝トーナメント1回戦(vs科学技術、3-0)や2回戦(vs袋井、4-0)のように華やかな試合にはならなかった。しかし、虎の子の1点を守り切った、ある意味で富士市立“らしくない”スコアこそ、一発勝負の舞台で新たな歴史を切り拓くために必要な力がついてきていることを示していた。

 全国切符を懸けた決勝戦の対戦相手は、世代屈指の技巧派軍団・静岡学園に決まった。今大会では初めて、同じカテゴリーのプリンスリーグ所属勢と対戦することとなり、これまでの試合よりも守備に追われる時間が増えることが予想される。ただ、決勝初進出の富士市立にとっては、失うものも、恐れるものもない。「ヘディングだけじゃなくて、今度はミドルシュートもズバッと決めたい」とさらなる欲を見せた望月の言葉に表れるように、チャレンジャー精神で真っ向からぶつかり合えば、また新しい景色が見られる可能性は十分に秘めている。

文=平柳麻衣