自作プレー動画集で“就活”も…肩書きに驕らず挑戦を続ける早稲田大MF鍬先祐弥が得たもの

[JR東日本カップ2020第94回関東大学サッカーリーグ戦1部・第11節(9月19日)/早稲田大学 0-1 慶應義塾大学]

取材・文=藤井圭

 4年ぶりに関東大学リーグで開催された早慶戦はプレーに影響を及ぼすほどの強風が吹き荒れていた。GKが蹴ったボールは向かい風によって押し戻されてしまい、その逆ではボールがいつも以上に延びてしまうなど、試合中普段ではあまり起こりえないキックミスが出てしまう。その中で一人だけ正確なパスを何本も蹴る選手がいた。早稲田大学の“心臓”、鍬先祐弥である。

 鍬先は向かい風となった前半から的確にパスを出し、強風の中でも関係なく相手サイドの深い位置へロングパスを供給。また相手からボールを奪うと簡単に1人、2人とかわして決定的なパスを送り、自ら運んでシュートも放った。

 攻守にわたってチームを牽引した彼は、「立ち上がりは相手が勢いを持ってくると予想していたので、なるべく簡単に裏に置いて相手の陣地へ押し込んで、というのがあった」と狙いを明かした。また強風については「想像以上に風が強かったので、そこは僕が判断を変えて蹴るというよりはつなぐ意識を心掛けた」と話し、0-1で惜敗した中でもピッチのコンディションや環境によってプレーの意識を変える順応性の高さを見せつけた。

 その鍬先がある動画をYouTubeにアップした。早慶戦から遡ること7日前のことだ。自分のプレー動画集を自ら編集して作成したという。「僕はプロ志望ですけど、決まっていないという現状がある。もっと自分自身のプレーを多くの人に知ってもらいたいと思って載せた」。この動画の投稿は“就活”の意味を込めた自己PRでもあった。

 今シーズンは新型コロナウイルスの感染防止のため関東大学リーグの前期は無観客で行われている。試合の映像は関東大学サッカー連盟の公式YouTubeチャンネルで配信されているが、Jクラブのスカウト陣をはじめ、自分のプレーが少しでも多くの人の目に留まるよう、動画編集に挑戦した。

 すると動画を作成したことにより、自らのプレーにも良い影響があったと鍬先は語る。

「自分のやるべきことや自分自身の特徴がより明確になってきたと感じている。“自分を俯瞰してみる”という視点を持つことでいろいろな課題も発見でき、それを改善するために練習からすごく前向きにチャレンジできている」

 動画作成をとおして“鍬先祐弥”というプレーヤーをより客観的に分析することができるようになったのだ。

 動画をアップしたことで、応援してくれる人たちの声も直接届くようになった。「僕の進路を気にしてくれる人たちが『応援してるよ』と声を掛けてくれた。その人たちに良い報告を個人としてもチームとしても届けるためにも頑張りたい」。応援の声が鍬先のモチベーションを上げ、さらなる向上心を芽生えさせている。

 東福岡高校時代に全国高校サッカー選手権大会で優勝を経験している鍬先は、肩書きに慢心することなくアクションを起こした。彼のように自作のプレー動画をYou Tubeに載せている大学生プレーヤーは多くないが、コロナ渦で就活の形が変わりつつある昨今、先駆けとして実行に移した鍬先の後を追う選手が続々と増えてくるかもしれない。

 鍬先は自身のプレーと動画の見どころを次のように語った。

「自分は人間味がプレーに出るタイプだと思う。それを動画で感じてもらうのはなかなか難しいとは思うんですけど(笑)、シンプルに自分のプレーを観て『応援に行きたいな』とか『鍬先祐弥という選手をもっと知りたいな』と思ってもらえれば一番うれしい」

 動画を観てみれば分かる。豊富な運動量で献身的にチームを助け、精度の高いキックで攻撃の起点となるパスを出し、時にはゴール前へ飛び出して得点を狙う。チームのために行うプレーのすべてが彼の人間性を表しており、プレー集には彼の魅力が存分に詰め込まれている。早稲田大からプロの舞台へ、鍬先の挑戦はこれからも続く。