耐えて、耐えて――最後に最高の瞬間が待っていた。スコアレスで迎えた75分、常葉大橘が獲得した左サイド寄りでのFK。「セットプレーで1点取ることは、チームとして毎試合目標にしている」という中村祐太が放り込んだボールを、混戦の中で柴康大が押し込み、値千金の決勝弾をもぎ取った。このまま試合は終了。県Aリーグ所属の常葉大橘が、プリンスリーグ東海に所属する“格上”の富士市立を1-0で撃破して、3年連続のベスト8進出を果たした。
ボール保持率では富士市立に圧倒され、何度もゴールを脅かされた。だが、常葉大橘の勝利は決して“偶然”ではない。特に「自分たちのサッカーができた」と新井裕二監督が振り返った前半の戦いぶりは、前線からのプレスがハマってカウンターにつなげられる場面も何度か見られ、常葉大橘の“狙いどおり”の展開だったと言える。
前線で精力的に走り回っていた中村は、「前日に富士市立の試合の映像を見て、前からのプレスに弱そうだったので、そこは思いっきりいこうとチームで決めていました。そこでもう少し(ボールを)取りきれれば良かったですけど、前半の流れは良かったですし、うまく相手の弱点を突くことができていたと思います」と、富士市立を苦しめた戦い方の狙いを明かした。
後半に入ると、個の力で畳み掛ける富士市立の猛攻を浴び、再三のピンチを迎えた。しかし、「結構、(ゴール前まで)割り込まれたので怖いなと思っていましたけど、最後のところで粘り強く対応できていた」(新井監督)と紙一重ながら耐えしのいだ。格上との勝負に選手たちの気合いが入っていたからなのかと問うと、指揮官は否定。「普段の練習から真面目で、謙虚に戦うことができる選手たちなので、そういう日頃の取り組みが出たんだと思います。むしろ前日の方が、県大会の初戦だったのでガチガチで、見ていて『大丈夫か?』と思ったほどでした(苦笑)。今日の方が“自分たちらしく”戦えていましたね」
中村も「キツいゲームでしたけど、普段の練習の方がかなりキツいので(苦笑)。いつも2時間半とか、長いと3時間くらいみっちり練習するので、体力も集中力も自信がありました」と日々の練習の成果に胸を張った。
準々決勝の相手は、藤枝明誠に決まり、またもプリンスリーグ所属勢に挑むこととなった。中村は「一喜一憂せずやっていきたい」と謙虚な姿勢を崩さず、次なる戦いに目を向けた。
文=平柳麻衣