取材・文=藤井圭
活動停止からのリーグ復帰初戦となった法政大。2点ビハインドという逆境を跳ね返したのは佐藤大樹のリーグ戦初となるハットトリックだった。チームを救った男の胸中には課題に取り組み、目標へ突き進む強い意志があった。
法政大は所属選手の新型コロナウイルス感染症の陽性判定のため、活動が停止となっていた。活動を再開して1カ月半ぶりとなるリーグ戦は決定機を決めきれず、前半を折り返して0-2と厳しい45分を過ごした。しかし、佐藤は「うまく(DFを)はがした時に得点のチャンスが作れていた」と相手守備との駆け引きの部分で好機をつくり、逆転へのシナリオを見出していた。
法政大は51分にオウンゴールで1点を返すと、66分にはCKから「負けてる状況でもチャンスは来ると信じていた」と佐藤のヘディングから同点に追いついた。2分後には左サイドから高木友也の弧を描いたクロスに再びヘディングシュートでネットを揺らし、わずか2分で2得点を記録。チームは一気に形勢逆転する。87分には佐藤がハットトリックとなる自身3点目を決め、勝利を決定づけた。終盤に1点を返されたものの、4ー3と逆転勝利で復帰戦に花を添えた。
大活躍となった佐藤はヘディングで2得点と長所を存分に発揮。その上で自らの課題についても口にした。
「ヘディングで点を取ることはストロングポイントではあるが、前での駆け引きや裏への抜け出しなどで相手の逆をつけたらもっとチャンスが増える」
実際、逆転ゴールとなった2得点目は相手選手との駆け引きから背後をとってフリーになり、高木友也の素晴らしいクロスボールをストロングポイントであるヘディングで決めてみせた。長所をさらに活かすためには、オフ・ザ・ボールの動き方がカギになると自覚している。
その課題と向き合うには、大学で出会った選手の存在が大きかった。法政大の先輩にあたり、鹿島アントラーズで活躍する上田綺世だ。上田は佐藤の1学年上の先輩。佐藤が下級生で試合に出られずスタンドから見つめていたピッチで上田が得点するところを何度も観て、練習では上田とコミュニケーションを取りながら多くのことを盗み、エースの背中を追った。やがて上田は自らの目標とする選手となり、たくさんのアドバイスも貰った。
「身体の使い方とか、強いDFにも身体を当ててキープしたり、(裏への)抜け出しの部分で相手がどこを見ているのか隙を突くところ。ボールが関係していない時の動き出し、オフ・ザ・ボールのところを学んだ」
相手DFとの駆け引きの部分で上田は強烈な印象を残し、最強の講師として自らに学びを与えてくれた。そして上田が鹿島へ加入してからも、彼の存在は佐藤にとって刺激になっている。
「今もJリーグで活躍しているのは刺激になる。上田選手のようになりたいという気持ちは自分にもある。そういったこともモチベーションに変えてこれから活躍していきたい」
また大学のサッカー部の活動が停止していた時期は地元の北海道に帰っていた。サッカーができない環境にもどかしさを感じていたが、改めて自分の環境が恵まれていることを再確認した。
「こういうご時世で当たり前にサッカーできる環境にあるのは本当に感謝しなければいけない。自分はFWとして結果で恩返しすることが一番だと思う」
サッカーができるということが当たり前ではない。地元でそう感じた佐藤は環境に感謝しながら、活躍することで恩返しするという強い気持ちが芽生えた。
プロで活躍する先輩の背中を追いながら与えられている環境に感謝し、今も佐藤は邁進している。現在3年生のため、最終学年となる来シーズンは将来についても考える年になる。目指すのは当然、プロの世界だ。
あの日、自分が観ていた背中を今度は自分がスタンドから見守る後輩へ示すことができるように。そして、目標とする上田が待つJの舞台へ、志は高い。