【静岡STORY~vol.4】「静岡に誇れるチームを目指す」東海学生リーグ唯一の国立大、静岡大学の意地と理想像

「静岡に誇れるチームを目指そう」

 平田敦之(4年/清水東高校出身)は静岡大学体育会サッカー部のキャプテンに就任した際、この言葉をスローガンに掲げた。

 地元・静岡市で生まれ育った彼は、静岡に根付くサッカー文化を理解している。「静岡といえばサッカー。高校の時から全国に出て活躍したいという思いがあった」という彼が「全国大会出場」をチームの目標に据えたのは自然な流れだった。

 しかし、立ち上げ当初、チームの足並みは簡単には揃わなかった。

「自分の代になった時、周りの意見を聞かずに『全国に行こうよ!』って決めちゃったんです。僕としては、最初から『残留』を目標にしていたら、残留争いしかできないチームになると思っていて。でも、『いや、無理でしょ』っていう否定の声もありましたし、最初はチームがバラバラで本当に大変でした」(平田)

 1949年に大学の開学と同時に創部されたサッカー部は、2019年に創部70周年を迎えた歴史の長いチームだ。2021シーズン時点では、東海学生サッカーリーグの中で唯一の国立大学でもある。現在は一般社団法人静岡大学サッカー部後援会が清水エスパルスに要請する形で、日本サッカー協会公認A級コーチのライセンスを持つ松尾大介氏が監督として派遣され、指導にあたっている。

 だが、長い歴史のなかで全国大会への出場は総理大臣杯で2回と、全日本大学サッカー選手権大会(インカレ)で4回(サッカー部公式webサイト引用)。2019シーズンには東海学生サッカーリーグ2部に降格し、1部に復帰した昨シーズンは9位に終わった。

「僕たちは国立大学で、言ってしまえばいろいろなレベルの選手がいます。今は東海1部にいますけど、一人ひとりの技術で言ったら推薦などで選手を集めている私立大学と比べてだいぶ差がある。何かで差をつけないといけないと思っていて、考えたのが、選手たちの主体性を伸ばすことでした」(平田)

「一人ひとりが主体性を持って取り組めば、苦しい時間帯でも自分たちで考えてプレーできる」。そう考えた平田は、持ち前の熱量でチームの矢印が一つの方向に向かうよう、様々な働きかけを行ってきた。

 松尾監督はエスパルスのスクールコーチでもあるため、静大に来るのは基本的に水曜、木曜、土曜の週3日。火曜、金曜、日曜はキャプテンである平田が中心となって練習している。「自分たちでサッカーを作り上げる形にしたい」という意向は松尾監督にも伝え、学年に関係なく選手の誰もが平田や監督に対して意見を発信しやすい環境をつくった。

「練習メニューを考える時は、『今、自分たちに足りてないものは何か』と考えて、ネットで調べたり、中学、高校時代の経験や知識をもとに決めています。ただ、実際にやってみたら上手くいかないこともよくあります。やりにくかったり、思っていたような現象が出なかったりした時は、他の選手たちに『どうすれば良くなると思う?』と意見をもらって、例えばワンタッチにしていたところを複数タッチに変えてみたりとか、一人ひとりが当事者になって練習を作っていきます。

 また、オフの日は僕が決めるんですけど、選手たちから『体力的に厳しいからオフを入れてほしい』と声が上がれば検討しますし、逆に『こういう練習をしたいから次の練習で取り入れてほしい』といった要望が出てくることも。そこは他の大学にはあまりない、静大の良いところかなと思います」(平田)

 新型コロナの影響による緊急事態宣言の発令に伴って試合が中止となり、選手たちのモチベーションを保つのが困難になった時期には、「キチキチした練習ばかりだと選手たちが飽きてきてしまうので、要所要所で遊び心を取り入れた練習を組んだり、AチームとBチームをミックスしたり」(平田)など工夫を凝らした。

 副キャプテンを務める竹端勇人(4年/草津東高校出身)は、「勉強だけの賢さだけじゃないクレバーさをみんなが持っているので、サッカーでもサッカー外でも効率の良さが感じられて、日々練習の質を高く保つことができている」と話す。

 結果的に今シーズンの全国大会出場はかなわなかったが、平田の熱量は徐々にチーム全体に浸透し、「全員が上を見ている」(中尾聡志・4年/松本県ヶ丘高校出身)集団へと変わっていった。

 主力の一人である松田雄士(3年/槻の木高校出身)は、「僕らは熱量だったり、守備の面での粘り強さや身体を張る部分で負けちゃいけない。そしてワンチャンスを決めきるのが静大のスタイル」と自信を持って口にする。

 また、松尾監督も「東海学生リーグの他のチームは部員数も倍ぐらい多く、身体的にも上回っている選手ばかり。でも、ボコボコにやられることなく、何とかがっぷり四つに組んで試合ができています。そのためのキーワードは『連動』。必ず連動して数的優位を作り、どんどん人数を掛けて戦うという意思統一はみんなでできている」と選手たちの戦いぶりを評価している。

「静岡に誇れるチームを目指す」うえで、ピッチ外での取り組みも活発化している。スポンサーの獲得やプロモーションをはじめとしたチーム運営に選手たちが分担して携わるだけでなく、週に2回、地域の小学校の見守り活動にも参加しているという。

「関東には自主運営に積極的な大学がいくつかあるので、知り合いから話を聞いて参考にしつつ、静大らしさを出していきたいなと思っています。ゆくゆくは今、僕らが見守り活動をしている小学生たちが静大に入学してくれたり、キャンパス内で東海学生リーグが行われる時、地域の方々に応援に来ていただけるような、地域と一体感のあるチームにしていきたい」(平田)

 70年以上の長い歴史を静岡の地で築いてきた静大サッカー部。静大スタイルで強豪校とも堂々と渡り合い、静大らしい地域密着の形を見出してきた。ピッチ内外で主体性を持って精力的に活動を繰り広げる若者たちのパワーと熱量は、これからの静岡サッカーの発展に欠かせない存在となるはずだ。

取材・文=平柳麻衣
写真=静岡大学体育会サッカー部提供

今シーズンから『七色鍼灸接骨院』がスポンサーに加わった。他にも地元企業のサポートを受けながら活動している