甲府内定・法政大MF長谷川元希…「綺麗なサッカー」へのこだわりを捨て、勝利をもたらす選手に

[『#atarimaeni CUP サッカーができる当たり前に、ありがとう!』3回戦(1月10日)/法政大学 1-0 流通経済大学]

取材・文=柿崎優成

 理想を掲げているだけでは、結果を残せない。法政大学のMF長谷川元希は悩み、葛藤した時期を乗り越え、プロ内定をつかみ取った。

 長谷川は大宮アルディージャユースから法政大学に進学。1年時から出場機会をつかんでいたが、入学当初は葛藤していた。

「大宮ユースのような『綺麗なサッカーをすること』にこだわりがあり、1、2年生の頃は自分の中でなかなか曲げられなくて、変化を受け入れるメンタルが整っていなかった」

 しかし、『綺麗なサッカー』は強度の高い大学サッカーのレベルでは通用しない。

「3年生になって、泥臭さや球際の強さ、守備で走ること、そういった大学サッカーで求められるプレーができる選手にならないと生き残っていけないと、やっと受け入れることができた」

 大学で身に付けた前線からのプレッシングで、チームに勝利を呼び込んだ。1月10日に行われた『#atarimaeni CUP』3回戦の相手は、大学サッカー内でも屈指のプレー強度を誇る流通経済大学。今シーズンは関東大学2部リーグ所属ながら、『アミノバイタル』カップ優勝を果たし、関東第1代表として今大会への出場権を獲得した。DF伊藤敦樹、DF宮本優太(浦和レッズ内定、宮本は2022シーズン内定)やDFアピアタウィア久、FW加藤千尋(ベガルタ仙台内定)、DF野々村鷹人(松本山雅FC)とJリーグ内定選手を複数擁し、下級生にも有力な選手が揃う手強い相手だった。

 リーグ戦終盤の快進撃により滑り込みで全国切符を掴んだ法政大は、「チャレンジ精神で、試合前のアップから勝ちたい気持ちを出して臨んだ」(長谷川)。そして均衡が破れたのは76分だった。流経大陳内で長谷川がインターセプトし、FW飯島陸、FW平山駿(ギラヴァンツ北九州内定)とパス交換してドリブルでペナルティエリア内に侵入。対峙する流経大DF伊藤のスライディングのタイミングを見計らい、待ち構える飯島へラストパスを送り、先制点をアシストした。

「相手の重心を見ながら足を出すタイミングを窺っていた。飯島くんは絶好調なので、パスを出せば決めてくれるし、パスのフィーリングがとても合う」

 長谷川の特徴である「ドリブル」は、アシスト以外にも多くの場面で法政大のチャンスを演出していた。それもドリブル一辺倒ではなく、相手の出方を窺いながら、冷静にプレーを選択している。「前半は、相手のディフェンスを前に出せず、中央をこじ開けるのが難しかったのでサイドの選手たちで大きく展開することを試した。僕の場合は右の関口(正大)に送ってチャンスを作れていた」(長谷川)。一方で、後半はポジションを右サイドに変え、得点シーンも含め長谷川がドリブルを生かす場面が目立った。

 法政大の長山一也監督は「ドリブルが上手く効果的に得点に絡める選手。また、試合の中でチームを引っ張っていく声を出せる」と評価する。

“チームを引っ張っていく声“は、流経大戦でも象徴的だった。選手同士で攻守の改善を図るべく、特に後半はプレーが途切れる度に活発的な話し合いが行われていた。

「昔だったらネガティブな言い合いが多かったんですけど、この大会やリーグ戦の9連戦を含めて互いに言い方を変えたり、ミスしてもポジティブな声掛けができるようになって、チームの士気が上がっている」

 長谷川は2021シーズンからのヴァンフォーレ甲府加入が内定している。決め手は大宮ユース時代の恩師、伊藤彰監督の存在と、自身のプレースタイルを表現できる環境にあった。

「(伊藤)監督にお世話になったので監督の力になりたい。練習参加して特徴のドリブルで運ぶプレーをチーム全体で受け入れてくれるのでプレーしたいと思った」

 甲府は2021シーズンに向けて長谷川の他に、法政大の同期である関口、明治大学のDF須貝英大、産業能率大学のDF野澤陸、桐蔭横浜大学のMF鳥海芳樹と大卒選手を多く獲得した。さらに、長谷川の位置する攻撃的なポジションには泉澤仁や野津田岳人など実力者が揃い、激しい争いが待っている。中でも意識するのは同期で加入する桐蔭横浜大の鳥海だ。自分の性格を負けず嫌いと表し、「ライバル意識はすごくあるので、良い関係を築いていきたい。まずは開幕スタメンを狙って、『甲府といえば長谷川元希』と言われるくらいの活躍をしたい」と意気込む。

 残された大学サッカーの試合は最大2試合。「今年のチームスローガンは『奪還~High Standards~』。昨年はタイトルを取れなかったけど、法政大は優勝しなければいけないチームなので、僕自身がチームを引っ張っていきたい」(長谷川)。“奪還”を置き土産にプロの世界へ進むことを目標とし、21日の準決勝・早稲田大学戦に挑む。