悪い流れを断った先制点…早稲田大MF鍬先祐弥、2列目起用で高めた攻撃の意識と成長

[JR東日本カップ2020第94回関東大学サッカーリーグ戦1部・第19節(11月29日)/早稲田大学 3-1 中央大学]

取材・文=藤井圭

 早稲田大は前節、順天堂大に0ー5と大敗して迎えた中央大戦。悪い流れを引きずりたくないチームの不安は、開始1分も満たない時間で断ち切られた。それは、大量失点で敗れた順天堂大戦を欠場した鍬先祐弥の得点だった。守備に絶対的な自信を持つ男は今シーズン、アンカーだけではなく2列目でも出場機会を増やし、持ち味の守備にとどまらず攻撃面にも磨きをかけている。

 東福岡高校時代は中盤の底でチームの心臓として君臨した。2年生ではインターハイと高校サッカー選手権で2冠を達成。高校サッカー選手権では3回戦から決勝まで無失点勝利を果たすなど、前線のタレントを支える縁の下の力持ちとしてチームを優勝に導いた。

 早稲田大へ進学すると、2年生ではアンカーの他に右サイドバックでも出場。3年生時も複数ポジションでユーティリティ性を見せて1部残留に貢献した。「守備で貢献しようと思って、攻撃は得意ではなかった。3年生ぐらいまではそういう心持ちでやっていた」と本人は持ち味の守備を第一に発揮してチームを支えていた。

 そして最終学年を迎えた今シーズン、外池大亮監督は鍬先を「4-1-2-3」のアンカーではなく1つ前の2列目で起用。これによって鍬先は攻撃の意識を高めることとなった。

「(2列目でのプレーによって)より攻撃やゴールの意識が増えた。攻撃や得点の意識が芽生え始めて、よりアグレッシブに自分の良さを出すことができている」

 得点の意識は結果にも表れている。中央大戦の得点は今シーズンのリーグ戦で3点目。「自分はもともと守備型のプレースタイルではあるが、シャドーをやる限りはゴールに貪欲にならないといけない」という意識の変化により、得点数は4年間でキャリアハイの数字を残している。

 鍬先の2列目での起用は、攻撃の意識を強く芽生えさせるだけでなく、前線へ飛び出す積極性が守備にもアグレッシブさを増し、攻守にわたって相乗効果が生まれている。昨シーズンより守備に対しての積極性が出たと指揮官は話す。

「堅実にやっているようで守備や攻撃のチャレンジ、自分のテリトリーを広げて新しい領域に向かっていく。派手さはなくても走力やアクションに守備のアプローチの距離というのは、僕が見てきた3年間の中でも(今年は)すごく大きく成長した」

 また攻撃的な意識には同学年の選手たちの存在もあった。同じ4年生では山田晃士や杉山耕二ら守備で頼れる選手たちとともに試合を重ねている。頼れる同期の存在は、鍬先の前に飛び出す意識を高めた要因のひとつだ。

 鍬先は以前、自身について「人間性がプレーに出るタイプ」と表現した。攻守にわたるアグレッシブなプレーは本人の内に秘めた思いを主張する人間的成長を体現している。一番近くで鍬先を見ている外池監督は、今シーズンの鍬先の成長を強く感じていた。

「昨年まではおとなしい印象があったが、すごく内に秘めているものがあって、それが今年4年生でチームを背負うことや自分の将来もあり突き抜けていこうという意思と思いを感じ、それを体現することができている」

 今年1年での成長が個人にもチームにも大きな影響をもたらしている。出場停止で出られなかった前節はチームが大敗し、その翌節では自身の先制点で勝利に貢献。鍬先が早稲田大にとって大きな存在になっていることが2試合で際立った。「今年に入って攻守にわたって良い感触でできている。まだ満足はできないがうまくいっている」と自身も成長を実感。守備だけではなく攻守においてチームの心臓として君臨している。

 中央大戦で先制点を決めた後、鍬先はキリアン・ムバッペのゴールパフォーマンスを披露した。「個人的に好きで決めたらやろうと思っていた。決めた後にちょっと恥ずかしくて控えめになってしまった」と笑いながら反省し、ゴールパフォーマンスへのアグレッシブさは発展途上の様子。ただ中盤の鍬先とFWのムバッペではプレースタイル的に異なるように感じるが、本人は目指している選手像に近いものがあった。

「(ムバッペのプレーは)観ていて楽しくてワクワクさせられる選手。プレースタイルは関係なしにそういう選手になりたいと自分も思っている。観ている人をワクワクさせられるような選手を目指しているので好きな選手」

 危険なシーンでも鍬先のアグレッシブな守備でボールを奪って攻撃へスイッチし、精度の高いロングパスでサイドへ展開。そして前線へ飛び出して得点を決める。そんな鍬先の存在は観ている人に期待感を抱かせてワクワクさせる。そういった素質を持っている。今年1年で大きく成長した攻撃と、その成長によってさらに幅を広げた一番の武器である守備。本人が見据えるプロの舞台でも攻守両面でチームの中心として輝く日は近い。