取材・文=柿崎優成
「なぜか中にいた」
部の公式SNSで発信された試合経過速報の言葉が、彼のポジショニングの神出鬼没ぶりを表していた。
「思い切って上がっていこうという判断が得点につながった」と振り返った“彼”とは、中央大学のDF深澤大輝だ。11月7日に行われた専修大学戦で2得点を決め、9-2というチームの大勝に貢献した。
今シーズンは思いどおりの成績が残せず、前節終了時点で最下位に沈んでいた中央大。直近3試合では先制するも逆転負けを喫しており、「試合の進め方やリードしているのに焦ってしまうところ」(深澤)が課題として浮き彫りになっていた。
その状況下で迎えた11位・専修大との直接対決。上位浮上のきっかけにすべく臨んだこの一戦は、前節までの試合とは違った。中央大は前半だけで6得点をマークすると、2失点を喫した後半も攻勢を緩めることなく3点を加え、12試合ぶりの白星を手にした。
「良い入り方ができたことが試合を決定付けた。また、チームとしてやり方が定まっていて、追加点を取りにいく姿勢をピッチで体現しようと思っていた」(深澤)
来シーズンからの東京ヴェルディ加入が内定している深澤にとって、“ポジショニング”は成長の跡そのものである。本職であるセンターバックのほか、昨シーズン途中からサイドバックにも挑戦。当初は「サイドバックをやるのは人生で初めてで難しさもあった。ビルドアップの立ち位置の難しさはCBと全然違う」と戸惑いを隠せなかった。
しかし、プロの試合の映像を繰り返し観てはSBの動きを研究し、SBを主戦場とする選手からも学ぶことで、自分らしいSB像をつくり上げようとしている。“自分らしさ”の一つが、彼自身も自信を持つ独特な「上がるタイミング」である。
「CBだからSBできないとか、言い訳はしたくない。どっちのポジションでも監督が求める水準以上のプレーをしていきたい」(深澤)
専修大戦では同じサイドでプレーするFW本間諒がサイドに開いてポジションを取り、深澤は内側から駆け上がるインナーラップの動きで攻撃に厚みを加えていた。攻撃時にはサイドよりも中央寄りで位置取ることが多く、チームの9点目を挙げた場面は、まさにそのとおり。試合終了間際の90+3分、自陣で拾ったボールをつなぎ、FW鈴木翔太のピンポイントクロスをダイビングヘッドで押し込んだ。
「練習での紅白戦で鈴木翔太に『マイナスのクロスを待っているから』と伝えていた。紅白戦で同じようなプレーがあって、その時は外しましたけど、今日は良いボールを決められて良かった」(深澤)。練習からの取り組みの成果に自信を深めていた。
深澤自身はSBでのプレーについて「上手くできているのか不安」とまだまだ発展途上な気持ちを覗かせているが、中央大の佐藤健監督は「CB、SB、3バックの右などを経験し、プレーの幅が広がっている」と評価している。
プロの世界に羽ばたく前に、絶対に成し遂げたい目標がある。チームの逆転残留だ。
「僕たちは落ちるところまで落ちてしまった。インカレに出場して日本一を目指していたけど、今は残留が目標になっている。後輩たちには絶対に1部の舞台を残したい」(深澤)
次節は10位・筑波大学戦。1部残留を置き土産にするために、一試合も落とせない戦いが続く。