取材・文=柿崎優成
《またどこかで会おう》
心から尊敬するJリーガーからのメッセージに、奮い立たないわけにはいかなかった。
早稲田大学の10番を背負うFW加藤拓己は、国士舘大学戦で今シーズン5得点目を決め、チームの勝利に貢献した。
早稲田大は部員の中に新型コロナウイルス感染症の濃厚接触者がいる可能性があるとされ、活動を一時停止し、関東大学サッカー連盟が定める対策ガイドラインによって第8節の順天堂大学戦が延期となった。「天皇杯予選から時間が空いて、最初の15分は難しさがあった」と言うようにコンディションは万全とは言えず、前半は相手のアグレッシブさに劣勢を強いられた。それでも加藤はピッチ内で率先して動き、チームに落ち着きを与えた。
「欲しいところにパスが来ない、パスが合わないなどは想定はしていた。試合の中で修正できるかが大事と思っていて、苦しいは時間あったけどコミュニケーションを取りながら、最後まで全員が信じ合って前向きな声をかけ続けたことが勝因だと思う」
1-0で迎えた後半、追加点が決まらずに試合が進むなか、加藤は67分にFKからヘディングシュートを叩き込んだ。「相手が引いて守ってくることが分かっていたので、セットプレーは今日のテーマの一つでもあった。(FKで)ニアサイドにDF柴田徹が良いキックを入れてくれて、上手く飛び込むことができた」(加藤)
勢いに乗せる追加点を奪った加藤はチームの中でも特異的な存在で、外池大亮監督によると「彼は『ミスター元気』と呼ばれていて、オープンマインドな性格でプレー内外でコミュニケーション取るのが上手く、人とつながれる力がある」という。「そういう意欲や能動的な部分がセットプレーのゴールシーンにつながった」と人間性の秀でた部分がプレーにも表れていると分析した。
その後、早稲田大は加藤と交代で入ったFW宮脇有夢が得点するなどのゴールラッシュで5-0の大勝を収めた。チームメイトの得点後、ベンチで喜ぶ様子を見せていた加藤だったが、胸中には危機感を覚えていたようだ。
「途中から入ってくる選手が結果残すと自分には危機感が生まれる。ただ、残りのシーズン勝ち続けるためにはチームの底上げも必要なので、切磋琢磨しながら一緒に結果を残していけたらベストだと思う」
加藤には、この国士舘大戦でどうしても得点を決めたい理由があった。加藤は山梨学院高校時代から何度か清水エスパルスの練習に参加しており、そこで出会ったJリーグ屈指のストライカー、鄭大世に対して尊敬の念を抱いている。鄭大世は8月下旬にアルビレックス新潟への期限付き移籍が決まると、加藤にメッセージを送ってくれた。
《加藤の入団を待たずして新潟に移籍することになった。またどこかで会おう》
鄭大世は公式戦に絡めない時期も自らを奮い立たせながら練習に打ち込み、「プロとしてのあり方」を練習生である加藤に示してくれた。また、まだ学生である加藤のことを「ライバル」だと言って、互いを高め合う関係性を築いてくれた人柄にも惹きつけられた。
その鄭大世は、新潟でのデビュー戦となった9月2日のV・ファーレン長崎戦で早速移籍後初ゴールをマーク。「本当にどこに行ってもお手本になる人。テセさんは僕にとって“憧れ”ではなく“目標”なので、テセさんを超えられるような選手になることがテセさんへの恩返しだと思う」。ゴールでもらった刺激は、ゴールで返す。国士舘大戦でのゴールは、まさにストライカーらしい“恩返し弾”だった。
次節の立正大学戦は相手の都合により延期が決まっており、2週間空いて慶應義塾大学との早慶戦に挑む。昨年行われた早慶サッカー定期戦で、加藤は連勝記録を「8」に伸ばす決勝点を挙げている。いつの日か鄭大世との再会を果たした時、自身の成長した姿を見せるためにも、加藤はゴールへの意欲を燃やし続ける。